現地法人と支店の違い(会社設立、法人設立)
2015.08.21
会社設立(法人設立)などシンガポール進出系
新規でシンガポール進出を検討されている方から、「法人と支店ってどう違うんですか?」というご質問をよく頂きますが、下記のような点が異なります。
1. 支店は設立手続きが面倒
法人としての日本本店の定款を英訳しなければならないなど、現地法人よりも手間がかかります。
2. 支店は居住者が2名必要
現地法人の場合は居住者(Resident Director)が1名で良いですが、支店の場合は居住者(Local Agent)が2名必要になります。
3. 現地法人の方が法定で要求されるコンプラ業務が多い
現地法人の場合、取締役会議事録の備付義務や、登記簿の内容が変わった場合のACRAへの届出事項が多かったり、法定の役職「カンパニーセクレタリー」を任命する必要など、こまごまなコンプラ業務が多いです(弊社も対応していますが、カンパニーセクレタリー業者を使えばこのあたりは全てやってくれます)。
4. 支店は日本法人の決算期と一致させなければならない
現地法人の場合は決算日は自由に選択できますが支店の場合は日本法人の決算日と同一であることが要求されます。
5. 支店の方が決算書の作成期限が短い
現地法人の場合は決算日から6か月以内に株主総会を開催する必要があり、その時までに決算書が作成できていれば構いませんが、支店の場合は日本本店の株主総会から2か月以内に作成する必要があり、(日本は決算日から3か月以内が株主総会開催期限なのでそこから2か月と考えると最長で5か月なので)支店の方が決算書を作成する期限が早いといえます。
6. 支店は日本本店の決算書の提出義務がある
支店の場合は、本店を加えた法人の決算書をACRAに提出する義務があります。
7. 法人税は支店の方が不利
シンガポールの法人税法はいわゆる「管理支配基準」のため、支店の場合はシンガポールの非居住法人とされます。また、現地法人を前提に整備されている制度、例えば租税条約の適用による軽減税率や外国税額控除(の一部)が使用できない、法人設立後3年間の部分免税が適用できないなど、支店は現地法人に比べて比較的不利な扱いを受けることも多いです。
また一番大きいのは、支店はあくまで日本法人の一部であるため支店で利益が出た場合は日本法人の利益の一部であるとして日本(の高税率)で法人税課税がされる点です。逆にいうと、支店で損が出た場合は日本法人の損失にもなりますので、法人税負担だけを考えると、シンガポールでの事業が黒字となる見込みの場合は現地法人、赤字見込みの場合は支店の方が有利になります。
8. 支店の方が閉鎖はラク
現地法人の清算の場合は(法人は有限責任であるため)利害関係者への配慮のため様々な手続きを経る必要がありますが、支店の場合は(法人格としての日本法人は残るので責任の追及先が維持されるため)そこまで利害関係者への配慮が必要とされないため、支店閉鎖の通知書の提出など閉鎖手続きは簡便です。
9. 支店の場合の法人格はあくまで日本法人である
支店の法人格であり取引主体はあくまで本店のある日本法人、現地法人の場合はそこで(株主が日本の親会社であろうが)責任が切り離されるシンガポール法人です。これは実は大きな違いです。
例えば、取引相手から「大きな企業しか相手にしない」と言われる場合は法人としての資本金が大きく社歴もあって信用力もある日本法人、つまり支店として見せる方がよいかもしれませんし、事業を行う上で裁判を起こされ、損害賠償を請求(例えば不注意な事故で従業員や顧客が亡くなってしまった、など)される場合などは支店の場合は日本法人が請求されることになります。
上記のような点を総合して現地法人か支店か判断することになります。
しかし、閉鎖や赤字を前提にするような後ろ向きなシンガポール進出というのもあまり考えられないでしょうから、「本気で稼ぎに来る」場合は、金融機関や建設会社など、資本力や信用力が問われる一定の事業以外では現地法人の方が良い場合が多いと思われます。