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シンガポール撤退の全体像|撤退基準・4つの選択肢・手続きの順番

最終更新日:2026年10月14日

公認会計士 萱場 玄

十分に準備し、多額の資金を投じてシンガポール進出しても、事業が想定どおりに進まないことはあります。この記事では、撤退の基準、選択肢、手続きの順番について整理します。

撤退の基準は進出の前に決めておく

想定していなかった状況が続くことはビジネスにおいては避けられませんが、実際に事業が苦しくなってから撤退の議論を開始するとなると撤退の判断が遅れがちです。どのような状況になったら撤退するのか、事業を始める前に基準と条件を決めておくことがリスク管理いえるでしょう。

株式投資のコツなどにも似ていますが、撤退基準は感情や過去に要した時間やコストではなく、客観的な数字で決めるのが妥当といえます。たとえば、投下する資金の上限、黒字化までの期限、手元資金が固定費の何か月分を下回ったら見直すか、といった基準を設定することが考えられます。意思決定の責任者を明確にしておくのも有効でしょう。

撤退の4つの選択肢

選択肢内容残る負担期間の目安
会社の売却株式を他社に譲渡する買い手探しと条件交渉。場合によってはデューデリ手続きなど案件による
休眠会社を残し取引を一切発生させない状態にする居住取締役や登記住所、カンパニーセクレタリーといった会社維持費用再開または閉鎖まで
ストライクオフ(登記抹消)ACRAへの申請で登記を抹消する申請前に資産と負債をゼロにする整理承認後4か月以上
清算清算人が資産と負債を整理し、会社を消滅させる清算人や法律事務所の費用1年以上かかることも多い

休眠会社は、一定の条件を満たすと、決算書の作成、法人税の申告、年次株主総会の開催が免除されることがありますが、年次報告(Annual Return)の提出や、居住取締役やカンパニーセクレタリー、登記住所費用などの維持費用が発生し続けることになります。

選び方の目安は次のとおりです。

  • 事業、許認可、人員に価値があり、買い手が見込めるなら、売却
  • 数年のうちに再開する可能性があり維持コストが許容範囲内なら、休眠
  • 再開の予定がなく、資産と負債を整理しきれるなら、ストライクオフ
  • 債務や係争が残り、整理しきれないなら、清算

撤退時の手続きと順番

ストライクオフを選ぶ場合、事業の停止が申請の前提です。次の1から5は、申請より前に終えておきます。

  1. 従業員への通知:雇用法が適用される従業員を解雇する場合は、書面で事前に通知します。通知期間は、雇用契約に定めがなければ、勤続期間に応じて1日から4週間です。人員整理にあたる場合は、MOM(人材開発省)への届出が必要になることがあります。
  2. 外国人従業員の所得税の精算:最終勤務日の1か月前までに、会社がIRASへ精算申告(IR21)を行います。確定した税額は、最後に支払う給与などから差し引いて納めます。
  3. 外国人従業員(ダイレクター含む)のビザのキャンセル:EPのキャンセルは、通知期間の最終日から1週間以内に会社が行います。EPがキャンセルされると、家族のDPなども同時に失効します。本人がシンガポールに残る場合は、キャンセルの際に最長90日の短期滞在パス(STVP)を申請できます。
  4. オフィスと住宅の賃貸借契約:シンガポールでは、賃貸借契約の中途解約が認められないケースが多くあります。その場合は、残りの期間の賃料について物件オーナーと交渉します。個人の住宅では、国外転勤の際に違約金なしで解約できる条項(Diplomatic Clause)が入っている契約もあります。退去時の原状回復の費用は、原則として借り手の負担です。
  5. GST登録の抹消と銀行口座の閉鎖:GST登録をしている会社は、登録の抹消を申請します。
  6. 最終の決算と法人税申告:これらを終えたうえで、ストライクオフを申請することになります。

(注)上記取り扱いは出稿時点のもので最新実務と異なる場合があります。

撤退は、進出よりも関係者が多く、順番を誤ると所要期間が大きく延びるケースもあります。さらに、撤退特有の論点、特に税務論点は極めて専門性が高く難易度が高いといえます。全ての手続きを専門家に依頼する必要はありませんが、少なくともアドバイスを求めることは税務リスクや法令違反リスクなどを最小化する意味では必須といえます。弊社では、会計、決算、法人税、個人所得税、登記抹消までを多くのケースで一括してお引き受けしており、多くのケースを経験しています。

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