シンガポールの新しい会計監査免除規定
2015.10.23
シンガポール諸制度(会計、セクレタリー等
日本では負債200億円以上、資本金5億円以上の会社、もしくは公開会社の場合ぐらいしか会計監査が必要ありませんが、シンガポールではもっともっと多くの会社でシンガポールCPAの会計監査を受けなければなりません。
え?そうなの?とお思いの方も多いかもしれませんが、「基本的に監査必須、ただし免除あり」という位置づけになっています。
現状の監査免除の要件は、下記の二つの要件を両方満たさなければなりません。
■株主要件
株主が全て個人株主(法人株主がいない)であり、株主数は20名以下であること
■売上要件
年間の売上が5Mドル以下であること
この要件が2016年から変わり、充足必須要件が下記の二つに変更になります。
■株主要件
株主数が50名以下であること(1日でも50人を越えたらダメ)
■定量要件(連結で判定)
以下のうち2つ以上を前年までの2会計期間(前年と前々年)で満たすこと。
・年間の売上が10Mドル以下
・総資産が10Mドル以下
・従業員が50人以下(フルタイム従業員のみが対象。決算日時点で数を数える)
上記株主要件にある通り、法人株主がいてもOKになりますが、定量要件については単体と連結両方でクリアしなければならなくなりました。シンガポール子会社であっても日本の連結決算での数値で判定ということになります。親会社が連結決算を作成していない場合は(関係会社取引消去を考慮できずに)全てのグループ会社の合計値で判定されることになります。
また、株主が20名を越えると監査必須だったところ、株主の数は50名までOKになったこと、売上5ミリオンが唯一の定量要件だったのが、売上5ミリオン越えても10ミリオンまでならOKになり、10ミリオンを越えたとしても総資産も従業員数も少なければ監査免除、ということは法人株主OKと並んで大きな変更点です。
全体的には要件緩和となり、監査免除の会社が増えるようです。ACRAによると、25,000社が新たに監査免除となると見込んでいます。
決算書を作成しなければならないとか、5%持分保有の株主が会計監査を要求できるという権利は今後も変わりません。
新しい基準の適用対象は「2015年7月1日以降に開始する事業年度」です。
さて、ここからややこしいので心して読んでください。
監査必須法人から監査免除法人に成るためには、「2年連続で要件を満たす」必要があり、逆に監査免除法人から監査必須法人に落ちるには「2年連続で要件を満たさない」ことが条件です。つまり、一度監査免除法人になると、1年満たさなくてもその次の年で要件を満たせば一度も監査を受けることなく監査免除法人のままですし、一旦監査必須法人になってしまうと、2年連続で要件を満たさないと監査免除法人に復活できないことになります。
ただし、2015年7月1日以降に始まる最初の2年間の事業年度(3月決算の場合は2017年3月決算と2018年3月決算。12月決算の場合は2016年12月決算と2017年12月決算)については、過去2年間の判定材料がないので経過措置があり、その事業年度ごと(前年ではない)で判定となります。つまり2017年3月決算の監査の要否は2017年3月決算で判定し、2017年3月決算で要件充足せずにその決算期で監査を受けた場合であっても、2018年3月決算で要件充足すれば1年の充足にもかかわらず2018年3月期から監査免除ステータスを獲れることになります。
さらにややこしいのは、上記経過措置期間であっても、一旦監査免除ステータスを獲ると「2年連続要件満たさない場合に限り監査必須法人に落ちる」というのが適用されるので、2017年3月期決算で要件充足し2018年3月期決算で充足しなかった場合でも2018年3月期決算では監査免除のままです。
なので経過措置のニュアンスとしては、「2年連続で要件を満たさないと監査免除法人に成れないところ、2年間のどちらかで要件を満たせば監査免除法人に成れる」という言い方の方が近いかと思います。
ちなみに2015年7月1日以降に設立した法人も2年間の経過措置に含まれますので、2年間はその年度ごとに要件充足を判定し、監査免除ステータスを獲れることになります。
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