居住性 (シンガポール居住者か日本居住者か) の判定
公認会計士 萱場 玄
公認会計士 寺澤 拓磨
大森 裕之
日本とシンガポール、いずれに国においても、居住者とされるか非居住者とされるかで所得税の取り扱いが大きく異なるため、それぞれの国での居住性の判定は非常に重要です。それぞれの国では、以下のように居住性の判定を行うとされています。
1. シンガポールにおける居住者,非居住者の判定基準
税務上,以下のいずれかに該当する場合にシンガポール居住者として扱われます。
①シンガポール国籍を保有し,シンガポールに居住する者
②シンガポール永住権を保有し,シンガポールに居住する者
③永住権を保有していない外国籍であってもシンガポールでの滞在が1暦年において183日以上の者
また、3年以上の暦年に渡って滞在もしくは雇用されている場合や、2暦年以上にわたって連続して183日以上シンガポールで雇用される場合などは、最初の年や最終の年の滞在日数もしくは雇用日数にかかわらず(183日未満であっても)それらの年は居住者として取り扱われます。たとえば,2018年10月にシンガポールに赴任し2020年5 月に帰国する場合であっても,最初の暦年と最後の暦年について(滞在もしくは被雇用日数が183日未満であるものの)、2018年も2020年も(当然2019年も)居住者として取り扱われます。
なお、EP保有期間中に他国(日本を含む)に出張した場合や一時帰国した場合も、EP保有期間中はシンガポールでの雇用日数に含まれること、また、EPの有効期限は通常1年以上であることから、通常はEP保有期間はシンガポール税法上の居住者であると考えて差し支えありません。
2. 日本における居住者、非居住者の判定基準
日本において、「居住者」とは、国内に「住所」を有し、又は、現在まで引き続き1年以上「居所」を有する個人をいい、「居住者」以外の個人を「非居住者」と規定しています。「住所」は、「個人の生活の本拠」をいい、「生活の本拠」かどうかは「客観的事実によって判定する」ことになります。つまり、その人の生活の中心がどこかで判定されることとされ、必ずしも日数で決まるものではありません。
また、ある人の滞在地が2か国以上にわたる場合に、その住所がどこにあるかを判定するためには、職務内容や契約等を基に「住所の推定」を行うことになります。「居所」は、「その人の生活の本拠ではないが、その人が現実に居住している場所」とされています。
結論、日本での滞在日数が年間で183日未満であっても、全世界で日本が一番多い滞在日数ではなくても、日本で居住者とされることがあるというのが日本の税法となります。
3. 日星租税条約
上記の通り、シンガポールの居住性判定と日本の居住性判定が必ずしも一致していないことから、「どちらの国でも居住者」という、いわゆる二重居住者の状況が生まれることがあり、その場合には両国で(居住者としての)不利な租税上の取り扱い(二重課税)を受けることがあります。
こういった不利益を防止するため、シンガポールと日本では、いわゆる租税条約を締約しており、どちらか一方の国のみで居住者となるよう一定の配慮がされています。日星租税条約によると、両国の税法でそれぞれ居住者となる場合、「その人的及び経済的関係が最も密接な国(重要な利害関係の中心がある国)」の居住者とするとされており、それでも判定が困難な場合は「その有する常用の住居が所在する国」とされ、それでもなお判定が困難な場合には「国籍のある国」とされ、どちらの国にも国籍が無い場合には両国の課税当局同士で協議するものとされています。
(注)上記取り扱いは出稿時点のもので最新実務と異なる場合があります。