日本&シンガポール両国の移転価格税制の概要
公認会計士・税理士 萱場 玄
移転価格税制とは
海外にグループ会社を有する場合、グループ会社間の取引をの取引価格を不当に設定することで、企業はグループ会社内での特定の国から特定の国へ利益を移転する動機を有することになります。典型的には税率の高い日本にある親会社から、税率の低いシンガポール子会社へなんらかの費用を計上し、日本の親会社の利益を減らすことでグループ全体の実効税率を下げるような取引です。移転価格税制は、これを防ぐための制度といえます。移転価格税制においては、グループ会社間で行われる国際取引の取引価格について、独立の第三者と取引した場合の価格(独立企業間価格)と同水準にすべきとし、それと異なる価格で取引を行っている場合には、独立企業間価格との差額について課税するというものです。日本と移転先の両国で二重課税される結果になることも多く、企業にとっては大きな負担となります。
適正な移転価格の算定方法
上述したように、適正な移転価格とは、第三者と取引したと仮定した場合の価格のことです。価格の設定方法としては、以下の3つがあり、基本三法と呼ばれています。
- 独立価格比準法:Comparable Uncontrolled Price Method (CUP法)
- 再販売価格基準法:Resale Price Method (RP法)
- 原価基準法:Cost Plus Method (CP法)
移転価格調査に関する税務調査
移転価格の大小に関わらず、税務調査に対して自社の設定する移転価格を合理的に説明をする必要があります。そのためには、適正な移転価格として認めてもらえるよう、根拠を示した資料を作成しておくことが重要です。
移転価格税制等に係る文書化制度
日本
税務調査対象法人は、独立企業間価格の算定に必要な書類の文書化が義務とされています。これは、関連者間取引に関する情報を適切に提供することが目的です。
- 作成期限:確定申告書の提出期限まで。
- 適用除外:国外関連者との前期の取引合計額50億円未満、かつ無形資産取引合計額3億円未満の場合。(国外関連者ごとに判定します。)
- 文書の保存義務:原則として7年間は国内保存。
シンガポール
シンガポールでも日本と同様に、独立企業間価格の算定に必要な書類の文書化が義務とされています。
- 作成期限:法人税申告期限まで。
- 適用除外:総収入が10ミリオンSGD以下、かつ前年度の移転価格文書化義務がない場合。ただし、総収入が10ミリオンSGD以下 の賦課年度文書化対象年度を含め3期連続である場合は、移転価格文書の作成が免除される。
- 文書の保存義務:IRASからの提出要請から30日以内に提出する。5年間の保存。
- 以下の取引に関しては、文書化は必須ではないとされる。
- シンガポール国内取引の場合
- シンガポール国内での資金貸付取引
- ルーティンサービスで5%コストマークアップ価格を採用している場合
- 事前確認制度で確認済みの場合
- 国外関連者との取引につき、売上・仕入で15ミリオンSGD、サービス・ロイヤルティで1ミリオンSGDを超えない場合
またシンガポールにおいては、適切な移転価格文書を適時に作成できていないと判断された場合、違反ごとに最大 10,000SGDのペナルティーが課せられます。
(注)上記取り扱いは出稿時点のもので最新実務と異なる場合があります。