出向者の給与
公認会計士 萱場 玄
公認会計士 寺澤 拓磨
大森 裕之
日系企業からいわゆる出向(日本の親会社等に在籍したままシンガポール子会社等でEPホルダーとして勤務など)でシンガポール勤務する場合に、シンガポールと日本の両方から給与の支払いを受けることがあります。
法人税
日本では一般的に、出向元法人が出向先法人との給与格差を補填するために(出向元法人が)出向者に支給した給与の金額は、出向元法人の法人税申告上、損金算入されます。したがって、出向元である日本法人がシンガポール法人等に出向している駐在員に対して負担し支払う給与の金額が、日本法人とシンガポール法人との給与格差を補填するためのものであれば出向元である日本法人で損金算入できることになります。
一方で、給与、つまり人件費の負担が本人の給与よりも少なくなるシンガポール法人では税務上は特段の問題にならないといえます。
個人所得税
まず出向者は、EPホルダーである以上、基本的にはシンガポール居住者であり、日本の非居住者とされますが、シンガポールの居住者であれ日本の居住者であれ、労働の対価としての給与所得(役員報酬は異なる)は、原則として「労働をどこで提供したか」によって課税される国が決まります。つまりシンガポールでの労働の対価として給与を受けている以上、日本で支払いを受けているとしても日本では所得税が課税されず、シンガポールで課税されることになります。
なお、日本で支払われる給与について出向元の日本法人が負担している場合の社会保険料についても、原則としてシンガポールの所得税が課税されますが、日本の監督官庁等による強制拠出金であること、シンガポールの恒久的施設(PE: Permanent Establishment)で負担されていないこと等の一定条件を満たせば課税されません。よって、一般的には健康保険や厚生年金の日本法人負担分はシンガポールの個人所得税は課税されず、厚生年金基金の会社負担分については(私的年金であるため)課税される、ということになります。
(注)上記取り扱いは出稿時点のもので最新実務と異なる場合があります。