事前確認制度(Advance Ruling System)
公認会計士 萱場 玄
公認会計士 寺澤 拓磨
大森 裕之
シンガポールの所得税法(いわゆる個人所得税、法人税等を含む)上、解釈が必要な部分については、移転価格税制に関するもののみならず、事前確認制度(Advance Ruling System)が認められています。事前確認制度とは、ある特定の取引に関する税務上の取り扱いが不明確な場合に、当該取引が行われる前に個別に税務当局IRASに詳細を説明し、税務上の取り扱いを確認、確定することができる制度をいいます。
申請手続き
申請手続きは、納税者自身で行うことも、取引相手等との共同で行うことも、タックスエージェント等に委託することも可能です。申請は所定の申請用紙に申請者名称や取引の詳細、グループ会社や株主の情報、考え得る論点などを記載して税務当局IRASに提出することになります。
申請費用等
事前確認の申請を行うには620㌦(GST込み)の費用を要しますが、事前確認を行った結果、回答が得られないといった場合であっても返金はされません。また、事前確認にかかるIRASの所要時間が4時間を超える場合にはタイムチャージ155㌦(GST込み)が、外部専門家などの費用がかかる場合には別途実費が請求されます。なお、緊急を要する場合などの個別事情に応じて、追加費用(通常料金の2倍が上限)を支払うことで迅速な対応を求めることができます。
申請後の取り扱い
申請後、3営業日内に申請の受領通知が行われ、その後、税務当局IRASから追加情報や不明点の確認等の連絡を受けた場合はそれに回答、質疑応答を行います。最終的に取引の詳細情報などの共有が完了後、通常は8週間以内に回答が得られます。
留意点
以下のような場合には、正しい回答が得られないばかりでなく、申請自体が却下されることがあります。
- 純粋なシンガポール国内税務で完結しない確認内容、例えば外国の法律や租税条約の解釈に依拠している場合、税務の取り扱いの前提となる事実の認定(キャピタルゲイン非課税の判定や居住性の判定を含む)を求める場合や、会計基準に関する論点の場合など
- 事前確認の内容が、他の取り扱いに関する不服申し立てや再審議依頼となっている場合
- 事前確認を行うにあたり、税務当局IRASに提供した情報や前提が正確でない場合
- すでに税務の取り扱いが確定した取引や税務調査が行われた取引などについての確認
- 脱税行為などを事前に認めさせる意図など、本来の制度目的を逸した目的での確認など
(注)上記取り扱いは出稿時点のもので最新実務と異なる場合があります。