国外出張が多い場合の所得税軽減措置
公認会計士 萱場 玄
公認会計士 寺澤 拓磨
大森 裕之
海外統括拠点として外資企業の誘致や国際取引の奨励をしているシンガポールでは、海外出張で国外を飛び回る個人を対象に、シンガポール居住者であってもその滞在日数に応じて個人所得税の軽減措置が認められています。
駐在員事務所の地域駐在員特例(Area Representative Schemes)
シンガポールの駐在員事務所において、活動が各国に及ぶためあまりシンガポール滞在日数の多くないような駐在員の所得税については、以下の条件に基づき、滞在日数に応じた特例措置を選択することが可能です。
- 駐在員事務所の外国法人(いわゆる税務上の非居住法人)にて雇用されていること
- シンガポールを活動拠点とすること
- 職業上の理由により国外出張が必要とされること
- 駐在員事務所の外国法人(いわゆる税務上の非居住法人)にて給与等が支払われ、また、実質的にシンガポールの恒久的施設にて負担されていないこと
上記の要件を満たす場合に、雇用契約や滞在日数表などを添えて申請し、税務当局IRASの承認を得ることで、シンガポール居住者であっても、滞在日数に応じた所得税計算を適用することが可能になります。なお、1日の一部分だけシンガポールに滞在した場合もシンガポール滞在日数にカウントされるため、1泊2日の出張については国外滞在とはされないため注意が必要です。
シンガポール法人等の非常勤者特例(NOR:Not Ordinarily Resident Scheme)
駐在員事務所以外のシンガポール法人やシンガポール支店においても、下記を条件に上記と同様の所得税の特例措置を選択することが可能です。
- NORを適用するはじめての課税期間以前の3課税期間、連続して税務上の非居住者であること
- NOR適用期間について、税務上のシンガポール居住者であること
- NOR適用期間について、年間で少なくとも90日はビジネス目的でシンガポール国外に滞在すること
- NOR適用期間について、シンガポールの給与所得が少なくとも160,000㌦であること
上記の要件を充足する場合、所得税申告期日までに申請用紙等を税務当局IRASに提出することで、給与所得(役員報酬や会社負担所得税は対象外)につき滞在日数に応じた所得税計算が適用可能です。なお、シンガポール国外の年金制度等を会社が負担している場合、本来は当該従業員の個人所得税課税対象になるところ、NOR適用対象の従業員については一定の条件のもとで課税対象外とすることが可能です。
また、NOR適用による税額は給与所得の10%を下ってはならないとされており、例えば所得が300,000㌦でNOR適用による個人所得税が10,000㌦の場合、給与所得の10%を下るため、個人所得税は30,000㌦とされます。
なお、1日の一部分だけシンガポールに滞在した場合もシンガポール側の滞在日数にカウントすることとされていますが、シンガポール出国日については国外滞在にカウントすることが可能(入国日は不可)です。
(注)上記取り扱いは出稿時点のもので最新実務と異なる場合があります。