日本の出国税(国外転出時課税)の概要
最終更新日:2023年9月8日
公認会計士 萱場 玄
公認会計士 寺澤 拓磨
大森 裕之
日本居住者が日本を出てシンガポール居住者となる場合に問題となる税務の取り扱いの一つに「出国税(国外転出時課税)」があります。
出国税の対象者
下記、いずれにも該当する日本の居住者が、いわゆる出国税の対象者となります。
- 所有等している『対象資産』の価額の合計が1億円以上であること
- 原則として国外転出をする日前10年以内において国内に5年を超えて住所又は居所を有していること
つまり、対象資産を1億円以上保有している日本の居住者が対象となる、といえます。
対象資産
以下が「対象資産」とされ、これらの資産を1億円以上保有するといわゆる出国税の対象となります。
- 有価証券(株式や投資信託など※)
- 匿名組合契約の出資の持分
- 未決済の信用取引・発行日取引(発行日取引とは有価証券が発行される前にその有価証券の売買を行う取引であつて財務省令で定める取引をいう。)
- 未決済のデリバティブ取引(先物取引、オプション取引など)
*現行法においては仮想通貨は対象資産に含まれないと解されています。
対象となる場合の選択肢
出国税の対象者が対象資産を保有している場合の選択肢としては、申告納税を行う、もしくは納税猶予制度を採用することとなります。また、申告納税は、納税管理人の届出を行い、国外転出後に申告をする選択肢と納税管理人の届出を行わずに国外転出前に申告をする選択肢に分かれます。
申告納税を行う場合の申告・納税期限
納税管理人の届出を行い、国外転出後に申告をする場合:国外転出をした年の確定申告期限(3月15日)
納税管理人の届出を行わずに国外転出前に申告をする場合:国外転出日
対象資産の評価時期
納税管理人の届出を行い、国外転出後に申告をする場合:国外転出時の価額
納税管理人の届出を行わずに国外転出前に申告をする場合:国外転出日から起算して3か月前の日の価額(ただし国外転出までに新たな資産を取得した場合のその資産は契約締結時の価額)
納税猶予制度
一般企業の駐在員のように、国外転出後、一定期間内に日本に戻ることが想定されている場合には、納税猶予制度を採用することにより、納税を猶予する、もしくは結果として納税せずに日本に戻ることも可能です。納税猶予制度を採用する場合、国外転出時までに納税管理人の届出を提出し、確定申告期限までに確定申告を行い、納税猶予分の所得税割及び利子税額に相当する担保を提供することを条件に、納税を5年(一度延長して最長10年)猶予することができます。この猶予期間の間に日本に戻ることで結果として納税が不要となるといえます。
(注)上記取り扱いは出稿時点のもので最新実務と異なる場合があります。