会計監査の概要
公認会計士 萱場 玄
公認会計士 寺澤 拓磨
大森 裕之
会計監査とは、一般的には会社の決算書を外部の監査人がチェックすることをいい、監査の結果、決算書が合理的な範囲で適正かどうかについて、第三者である独立監査人が監査報告書(Independent Auditors Report )により監査の結果を報告することをいいます。シンガポールで設立された現地法人は会社法により原則として監査が義務付けられており、法人設立から3ヵ月以内に会計監査人(Auditor)を選任してACRAに登記しなければなりません。なお、シンガポール法人には日本の監査役に該当するような会社内部の業務監督機関はありません。
シンガポールにおける監査人
実務上、会計監査を行う業者のことを監査人と呼ぶことがありますが、通常、担当の監査法人もしくはシンガポール公認会計士個人のことを指します。監査人はACRAに登録され、個人事業や法人コンプライアンスの管理監督官庁であるACRAを監督官庁として、シンガポールの会計監査制度を担っています。
監査報告書での意見表明の種類
監査報告書において記載される監査意見の種類を日本の監査制度に当てはめると以下の種類になります。
無限定適正意見(Unqualified opinion)
経営者の作成した財務諸表が、一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に準拠して、企業の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況をすべての重要な点において適正に表示しているときに表明される意見になります。つまり全ての重要な点について決算書が適正である、という意見といえます。
限定付適正意見(Qualified opinion)
「経営者が採用した会計方針の選択及びその適用方法、財務諸表の表示方法に関して不適切なものがあり、その影響が無限定適正意見を表明することができない程度に重要ではあるものの、財務諸表を全体として虚偽の表示に当たるとするほどではないと判断したとき」もしくは「重要な監査手続を実施できなかったことにより、無限定適正意見を表明することができない場合において、その影響が財務諸表全体に対する意見表明ができないほどではないと判断したとき」に表明される意見になります。つまり重要な点のいくつかについて誤りやチェックできなかった点があるものの、全体としては間違っているとまではいえないという場合に表明される意見といえます。
不適正意見(Adverse Opinion)
経営者が採用した会計方針の選択及びその適用方法、財務諸表の表示方法に関して不適切なものがあり、その影響が財務諸表全体として虚偽の表示に当たるとするほどに重要であると判断した場合に表明される意見で、財務諸表が不適正である旨の意見が表明されます。つまり決算書が大きく間違っている場合に表明される意見といえます。
意見不表明(Disclaimer of Opinion)
重要な監査手続を実施できなかったことにより、財務諸表全体に対する意見表明のための基礎を得ることができなかった場合、つまりチェックできない点の重要性が高く、決算書が正しいかの意見表明ができない、というケースです。
会計監査人の選任
会計監査人の選任については取締役会、株主総会で決議され、契約当事者である法人と会計監査人の双方による監査契約書(Engagement Letter)への署名をもって選任されます。その後、選任した会計監査人をACRAに登記します。
会計監査の期限
一般的なシンガポール法人(ACRAのモデル定款を採用しているプライベートカンパニー)の場合、会計監査の期限つまり監査済み決算書の作成期限は、年次株主総会(AGM)の14日前となります。一方で支店の場合、本店の年次株主総会開催日から60日以内に監査済みの決算書と本店を含めた法人の財務諸表とともに年次報告を行う必要があります。なお、本店と支店で同一の監査人である必要はありません。
実務上、特に一般的なプライベートカンパニーの場合、取締役決議や株主総会をバックデートで書面決議にて行うケースも多く、その場合の実質的な監査済み決算書の作成期限は年次報告の期限(現地法人の場合は決算日から約7か月後、支店の場合は本店株主総会から約2か月後)と同一日、ともいえます。
監査の免除規定
会計監査は原則必須とされていますが、会計監査免除規定により、特に親会社の存在しない個人株主のシンガポール法人の場合は会計監査が免除されているケースが多いといえます。
(注)上記取り扱いは出稿時点のもので最新実務と異なる場合があります。