シンガポール進出における事業体(現地法人、支店等)の種類

公認会計士  萱場  玄

公認会計士  寺澤 拓磨

大森 裕之

 

シンガポールへ事業進出して拠点を設ける場合、様々な組織形態の選択肢が用意されています。日系企業が進出する場合には、現地法人(Company)の形態を選ぶことが最も一般的であり、次いで支店(Singapore Branch Office)、駐在員事務所(Representative Office)の形態により進出することが一般的です。

 

シンガポールで選択可能な組織形態は以下の通りです。なお、会社設立に関する監督官庁は基本的にはACRAとなりますが、駐在員事務所についてはIE Singapore、ビジネストラストについてはシンガポール通貨金融庁(MAS)が所轄当局となっています。

 

・個人事業主(Sole Proprietorship)

・パートナーシップ(Partnership)

・有限パートナーシップ(Limited Partnership: LP)

・有限責任パートナーシップ(Limited Liability Partnership: LLP)

・現地法人(Local Company)

・支店(Foreign Company)

・駐在員事務所(Representative Office)

・ビジネストラスト

 

個人事業主(Sole Proprietorship

18歳以上のシンガポール国民、永住権者または起業家パス保有者(EntrePass holder)であれば、事業登録法(Business Registration Act)に基づく登録をすることで、個人事業主としてビジネスを行うことができます。個人事業主がシンガポール居住者でない場合は、代表権者(Authorized Representative)にシンガポール居住者を指名する必要があります。個人事業主は無限責任であり、事業上の債務や損失について個人的に責任を負うこととなります。また、事業で稼得した所得は、個人所得税として課税されることとなります。

 

ただし、一人の自然人である個人オーナーによって行われる組織形態であるため、日系企業がこの形態を選んでシンガポールに進出することは一般的ではありません。

 

パートナーシップ(Partnership

2名から最大で20名までの自然人であるパートナーで構成される組織形態であり、20名を超える場合には、パートナーシップではなく、法人(Company)の形態により設立しなければなりません。パートナーは、18歳以上のシンガポール国民、永住者または起業家パス保有者(EntrePass holder)であることが求められますが、これらに該当しない外国人がこの組織形態を選ぶ場合には、代表権者(Authorized Representative)にシンガポール居住者を指名する必要があります。パートナーシップも、個人事業主と同様に独立した法人格は有さず、各パートナーが事業上の債務や損失について無限責任を負うこととなります。したがって、組織名で財産を所有することはできません。また、各パートナーが事業で稼得した所得は、それぞれの個人所得税として課税されることとなります。

 

こちらもパートナーが自然人に限定されることや、無限責任を負うことから、日系企業がパートナーシップの組織形態を選んで進出することはほとんどありません。

 

有限パートナーシップ(Limited Partnership: LP

こちらもパートナーシップと同様、2名以上のパートナーで構成される組織形態ですが、上限数はありません。また、最低でも1名以上の無限責任パートナー(General Partner)と、1名以上の有限責任パートナー(Limited Partner)が必要となります。なお、いずれの責任のパートナーも、自然人のみならず法人(Company or LLP)でもなることが可能です。無限責任パートナーの全員がシンガポール居住者でない場合には、シンガポール居住者をローカルマネージャーとして指名する必要があります。また、構成員であるパートナーが法人であったとしても、LPはあくまでも法人ではなく、それ自体が独立した法人格を有するわけではありません。したがって、LPの組織名で財産を所有することはできません。ただし、訴訟においては組織名のもと、構成員全体が当事者となります。自然人がパートナーである場合は、事業で稼得した所得は個人所得税として課税されることとなりますが、法人であるパートナーは、法人所得税として課税されることとなります。

 

LPの組織形態は、業務執行を中心とするパートナーと、出資を中心とするパートナーに区別することができるため、投資ファンドを組成する場合に用いられることがあります。

 

有限責任パートナーシップ(Limited Liability Partnership: LLP

LLPはパートナーシップやLPと異なり、事業のオーナーであるパートナーとは別の独立した法人格を有する組織です。LLPの組織の名において財産を所有することもできます。パートナーは最低2以上必要であり、上限数はなく、自然人と法人(Company or LLP)いずれでもなることが可能です。ただし、最低1名のシンガポール居住者をローカルマネージャーとして指名しなければなりません。

 

LLPは独立した法人格を有するため、事業上の債務や損失等の法的責任はLLP自らが負うこととなり、各パートナーは負いません。なお、株式会社の出資者とは異なり、パートナーは自らの責において生じた債務や損失については個人的に責任を負うこととなります。もちろん、他のパートナーの責において生じた債務や損失については責任を負いません。

 

パートナーの責任が有限であること、独立した法人格を有すること、パートナーが自然人と法人のいずれもなれることから、後述する現地法人と似ているところがありますが、税務上は、事業から稼得した所得について、パートナーシップやLPの組織形態と同様、各パートナーの所得(自然人であれば個人所得税、法人であれば法人所得税)として課税される点で大きく異なります。他にも、株式会社に比べて設立が容易であることや、設立コストが安いこと、定時株主総会の開催義務や取締役・カンパニーセクレタリーの設置義務がなく、年に一度の財務状況の健全性に関する宣誓書を提出のみ求められる点で異なります。

 

LLPの組織形態は、日本と同様に会計事務所や法律事務所など、個々人がそれぞれに事業責任を負うような専門家集団に適した形態ともいえます。

 

現地法人(Local Company

現地法人は、シンガポール会社法に基づき設立される組織形態であり、支店に比べて設立手続が簡単であることや、タックスヘイブン対策税制が適用されない限りは低税率である現地の法人税率(17%)が適用されるといったタックスメリットもあるため、日系企業がシンガポールに進出する時に最も選ばれるのが、この現地法人の形態による進出となります。

 

現地法人は会社法上、以下のように分類できます。


事業体の種類 

 

・有限責任会社 (Limited Company)

株主等の出資者の責任が限定されている会社をいいます。有限責任会社はさらに、責任限定の方法(株式による限定、保証による限定)や株式譲渡制限の有無、その他政策的配慮によって分類が細分化されます。

 

・プライベート・カンパニー(Private Company)

株式により出資者の責任が限定されている会社のうち、株式の譲渡制限が定款によって付され、かつ株主数が50名以下の会社です。日系企業が出資して現地子会社を設立する場合は、シンガポール法人自体の株式上場を視野に入れている場合を除き、通常はプライベート・カンパニーを選択することになります。

 

・免除非公開会社 (Exempt Private Company: EPC)

プライベート・カンパニーのうち、株主数が20名以下かつ全てが個人株主である会社、もしくは政府が100%保有するプライベート・カンパニーで、大臣(Minister)が官報(Gazette)において、EPCである旨を宣言した会社です。

 

多くのEPCでは、起業促進のための優遇税制を受けることができるほか、コンプライアンス義務の一部軽減や取締役に対する貸付も認められており、個人出資でシンガポールに進出する場合には、EPCに該当する場合がほとんどです。

 

・小会社 (Small Company)

プライベート・カンパニーのうち、一定の要件を満たす会社については、Small Companyに該当し、会計監査人の選任及び会計監査が免除されます。詳しくは、会計監査の免除要件をご参照ください。EPCでも規模の大きいオーナー会社などの場合は小会社にならないことも、逆にグループ規模が小さくて小会社に該当する場合であってもEPCではない場合もあり注意が必要です。

 

・パブリック・カンパニー(Public Company)

株式による責任の限定がされている会社のうち、株式の譲渡制限がないか、もしくは株主数も50名超にできる会社です。株式を公募することや、シンガポール証券取引所に上場し、株式を公開することができます。

 

・保証有限責任パブリック·カンパニー(Company Limited by Guarantee)

日本では馴染みのない組織形態であり、通常、慈善事業や宗教、芸術、学術等の布教活動といった非営利事業を行う場合に利用される組織形態となります。出資者の責任は有限であり、株式という形態での出資ではなく、保証による出資の形態をとります。また、会社は出資者に対して、会社が解散する時にのみ出資義務の履行を求めることができる点で、株主に対していつでも出資義務の履行を要求できる株式出資形態とは異なります。

 

・無限責任会社(Unlimited Company)

無限責任会社は、出資者の責任が無限責任であるため、営利を目的としてビジネスを行う場合には、有限責任の形態が選ばれることが一般的です。ただし、最低資本金が課されないため、業界規制がある場合に利用されることがあります。

 

支店(Foreign Company

会社法上、Foreign Companyというと通常は外国法人のシンガポール支店をいいます。日系企業が現地法人である子会社を設立せずに支店形態を選ぶ場合、当該支店はシンガポールにおいて独立した法人格を有さず、親会社と同一の法人格として取り扱われるため、支店は現地法人ではなく外国法人としての位置づけとなります。なお、支店の登記や代表権者(Authorized Representative)の設置義務等はシンガポールの会社法等で規定されていますが、基本的には本店所在地国の会社法の規定に従う必要があります。

 

駐在員事務所(Representative Office

駐在員事務所は、独立した法人格は認められず、外国法人がシンガポールで本格的に事業を開始する事前段階として、現地での市場調査やフィージビリティスタディ、日本との連絡業務等を行うために用いる組織形態です。他の組織形態は、ライセンスの取得を前提として、シンガポール国内において、ほとんど制限なく、様々な業種の事業を行うことができますが、この駐在員事務所は営業活動が禁止されています。

 

駐在員事務所の設立については、基本的にシンガポール国際企業庁(IE Singapore)が所轄当局となりますが、銀行、ファイナンス、保険等の金融関連の駐在員事務所については、シンガポール通貨金融庁(MAS)のもとで設立に関する登録をする必要があります。

 

ビジネストラスト(Business Trust

ビジネストラストは、ビジネス· トラスト法(Business Trust Act)に基づき規制され、所轄当局はシンガポール通貨金融庁(MAS)となります。企業と信託の両方の要素から成る複合型の組織形態であり、信託証書により設立されます。なお、ビジネストラストは、独立した法人格をもちません。投資家(受益者)は、事業の信託受益権を購入する形で出資を行い、法律上、ビジネストラストのユニットの所有者となります。一方、事業信託の対象である資産の法律上の所有者は、受託者たる事業経営者となります。受託者は、受益者の利益のために事業信託の管理・運営を行い、事業上の利益を受益者に対して分配することとなります。ビジネストラストは、特定の事業目的のために管理、運用され、不動産ファンドやゴルフ場などによく利用されます。

 

 

(注)上記取り扱いは出稿時点のもので最新実務と異なる場合があります。

最新の実務情報はシンガポール入門~最新実務編(オンライン)~にて提供しております。